Microscopy 顕微鏡

私たちの特徴である顕微鏡についてのページです。

○電子顕微鏡の技術と画像のページ

  ○透過型電子顕微鏡関連技術
      どのようにして画像が見えるのか
      固定から 包理まで
      薄切技術
      顕微鏡操作と画像記録



  ○走査型電子顕微鏡関連技術
      どのようにして画像が見えるのか
      試料作成法
      顕微鏡操作と画像記録



光学顕微鏡の技術と画像のページ

      蛍光抗体法とは
      蛍光抗体法の利点は
      主な原理と手順
      固定
      脱水(乾燥)
      有機溶媒
      TCA(トリクロロ酢酸)アルデヒド
      固定法、抗体の組み合わせの良否の検定





透過型電子顕微鏡関連技術


LLCPK1細胞でのmyosin II-Bの免疫電顕で黒い粒子がmyosin II-Bの局在を示します。AJの近くに多いのが見えています

MDCK2におけるtubulinでやはり黒い粒子がtubulinの局在を示し、直線状に集まっているので、それが微小管であることがわかります。

どのようにして画像が見えるのか
  電子顕微鏡は試料に電子を照射してそこから得られる情報から試料の何らかの構造をイメージとして表す装置です。透過型電子顕微鏡は試料に電子を照射した後、 それを透過して出てきた電子の情報から画像を作ります。試料を透過させるためには電子に高い電圧をかける必要があり(電圧が低いと試料を電子が通り抜けられない)、 生物試料の場合、通常10万ボルト程度です。試料内の原子の原子核は電子と相互作用をして、透過する電子の向きを変えます。蛍光板を電子が試料を透過した後に当たる ような位置に置きますと、電子の当たった部分は蛍光板が光ります。また、電子が試料内の原子核と相互作用して向きが変わると、蛍光板のその位置には電子がやって こないので、蛍光板は光らず、ちょうど影のように暗くなります。このように電子のやってくる所とやってこない所との明るさの差からコントラストのある画像ができること になります。この作用は、原子番号の大きい、重い原子核ほど強く、生体を構成しているH, C, O, Nなどではそれほど強くありません。そのため、一般的には重金属 (鉛やウラン)を試料にしみ込ませます。生体試料は均一に重金属と結合するわけではなく、タンパク質や脂質の一部等に強く結合するので、生体のそのような構造を反映 した像が蛍光板に映し出されます。蛍光板上の像を観察することもでき、また、蛍光板の代わりにフィルムを置いて、画像を撮影することもできます。 また、CCDカメラを置けば、デジタル画像として記録することも可能となります。


固定から包理まで
  透過型電子顕微鏡の原理から、試料中を電子が全てそのまま通り抜けてしまったら像のコントラストがつきませんし、また、試料中を電子が通過できなくても情報が 得られません。通常の生体組織内の構造を見ようとする場合、電子線がほどよく透過し、ほどよく試料と相互作用するようにするため、試料を100 nm以下の厚さにスライスすること がよく行われます。電子が流れるために電子顕微鏡内は高真空になっていますから、生の生体試料を薄いスライスにしたとしても、水分が乾燥し試料はひからびて、生きている時の 構造からかなり変わったものになってしまいます。また、実際問題として、生の生体試料を薄くスライスすることは不可能です。真空中でも生体の構造が変わらないようにするため には、試料の水分を抜く必要がありますが、そのままではひからびるだけですので、生体分子が動かないように化学架橋(固定)をし、生きている時の構造を保った状態で、試料の 外液を有機溶媒にして試料から水分を抜きます。さらに、試料を樹脂包埋します。この樹脂には接着剤に使われるエポキシ系樹脂が一般的に使われます。エポキシ系樹脂は硬化した 時の体積の変化が非常に少ないことから生体構造を破壊せずに保つことができます。また、その堅さも50 nm-500 nmの厚さの切片が簡単に作製で切る程度に調整できます。 以上のような理由から、通常、試料を固定し、脱水、樹脂包埋を経て切片を作製します。

  一般的な固定は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドを含む前固定と、四酸化オスミウムを含む後固定との2段階からなります。 アルデヒドはタンパク質のアミノ基と化学結合を作り、タンパク質を変性させます。特にグルタルアルデヒドはアルデヒド基を分子の両端に持ち、タンパク質を架橋する能力が高い ので電子顕微鏡レベルでの構造保持には大変有用です。一方ホルムアルデヒドは架橋能力が高くはありませんが、低分子で浸透性が良いので、迅速な固定のために併用されることが 多いのです。四酸化オスミウムは強力な酸化剤で、蒸発しやすく、ドラフト内で使用しないとその蒸気でも鼻腔粘膜、角膜等が冒されてしまうほどです。オスミウムの使用が近代的 な電子顕微鏡法の象徴とみなされていた頃の教科書には、先進的な研究室ではオスミウムの甘い香りが漂っている等と書かれていたことがありました。もちろん、甘いと感じられる うちは良いのですが、においがわからなくなってきたら、それは鼻腔粘膜がやられてきたことを示します。樹脂包埋というのは細胞内の構造を保つにはかなり厳しい処理らしく、 前固定にグルタルアルデヒド、後固定に四酸化オスミウムという組み合わせでの固定をしないと、細胞内構造が保たれないことがあります。前固定、後固定と2段階に分かれているのは、 アルデヒドが還元剤、四酸化オスミウムが酸化剤なので、両者の効果が相殺されないようにするためという理由付けがなされていますが、固定に関する科学は難しくて進んでおらず、 実際に両者を同時に使用して問題ない像を得ているという研究者もいます。

  さて、前固定は1時間から一晩ほど行われ、また、この段階では冷蔵での長期保存が可能とされ、実際に1か月ほどの保存ではほとんど差を認めることがないことが多い ようです。後固定は氷冷して30分から2時間ほど行うのが普通です。その後、エタノールないしはアセトンなどの水溶液を用いて脱水を行います。50-70%の水溶液からスタートし、 最後にはモレキュラーシーブなどで水分をできるだけ取り去った100%のエタノールなどに置換し、さらに酸化プロピレンなどの有機溶媒に置換します。その後それをさらに樹脂に置換し、 最終的には100%の樹脂につかった状態で60度のオーブンに入れる等して熱重合によって樹脂を硬化させ包埋を完了させます。固定から包埋完了までは、通常数日間はかかるものです。

  この間に、包埋自体には直接関係しませんが、ウランによるブロック染色を行うのが普通です。固定と脱水の間にウランの水溶液に2時間から一晩試料を浸けます。 これは試料内の構造にウランが結合して、像のコントラストを増強させるのが目的です。像のコントラストに関しては、オスミウム自体も重金属なので像のコントラストをつけるの に一役買っています。さらに前固定の際に固定液にタンニン酸を入れておくと、タンニン酸がタンパク質に付着し、それがウランなどの重金属による電子染色の「のり」をよくする ようで細胞骨格等を強調したい時に使われる場合があります。もっとも、界面活性剤等で細胞内の可溶性のタンパク質をかなり除去しておかないと、細胞内全体がやたらに黒くなって かえって構造が見にくくなることがあります。

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薄切技術
  固定、包埋までは時間がかかりますが単純作業で、特別な技術、経験を必要とするほどではありません。しかし、その後の試料のスライスを作る、薄切の技術は電顕像の質にも 直接関わり、高価な装置を扱うという点からも、電顕技術の一つの要とされてきています。試料を切るためのナイフと、試料を100 nm以下の厚さで正確に送り出すミクロトーム という機械を使います。生体の臓器の一部や、胚などを切る場合、最終的にどこが見たいのかをしっかり決めて、見るべき場所以外を削り落とします。トリミングという作業です。 こういうことが必要なのは、電顕の鏡筒内に入れられる試料の大きさには限界があることによります。2 mm角程度は一応可能だと思いますが、実際にはナイフの負担を減らすためにも 1 mm角よりもずっと小さくするのが普通です。いずれにせよ、光学顕微鏡レベルの切片と比べると切片の大きさはかなり小さいので、電子顕微鏡で全体を見てやろうとするのには 無理があります。なるべく多くの観察例から共通する点を述べたい場合、光学顕微鏡レベルでできるものがあればできるだけその段階で調べた方がより信頼性が高い結果が得られる ことになります。さて、臓器や胚等はまず、試料全体を0.5 ミクロン程の厚みの切片にし、トルイジンブルーなどの染色液で染めて、光学顕微鏡レベルで何が切れているのかを観察します。 見たい部分がまだ見えないとか、角度が気に入らなかったりすれば、さらに切り進んだり、切削の角度を変えたりします。どこをどの角度で見ても大差ないような組織ならよいのですが、 胚の中で一つないしは二つしかない細胞を見たい等という場合はかなり時間をかけなければならなくなることがあります。光学顕微鏡レベルで見たい位置に達したならば、 先に述べたトリミングを行って、観察可能な部分以外を削り落とします。樹脂の不要な部分を切り落とすトリミングは、通常カミソリの刃を使って手作業で行います。 試料を適当な深さまで切削したり、光学顕微鏡レベルの切片を得るためにはガラスナイフを用いるのが普通です。このガラスナイフはナイフメーカーという装置でガラス板を割ること によって作製します。ガラスですので1個あたりは安価ですが、刃先は鈍りやすいものです。荒削りや、光学顕微鏡レベルの切片のチェックに使われますが、電子顕微鏡で観察する 切片の作製に使用されることは現在ではまれです。さらに0.5ミクロンの光学顕微鏡用の切片も数ミクロンの厚みのパラフィン切片と比較すると細胞の重なりもなく、微細な部分の情報 が得られることから、よりきれいな切片を連続して得るために専用のダイヤモンドナイフが製品化されており、私たちは重宝しております。電顕技術のサポートの仕事を数年間経験して きて私たちは、この電顕レベルの切片を作製する前の光学顕微鏡レベルの切片の染色像から得られる情報がとても重要であることに気がつきました。初めての試料を扱う場合等特に、 試料のどこを切っているのか、光学顕微鏡レベルで記録しておくことは、電顕レベルの切片の切削位置の正しさを保証するばかりでなく、別個体で正確に同じ場所を切るための、 参照すべきデータとして非常に有用です。比較的安価なCCDカメラが顕微鏡に付けられるようになってきたため、手軽に光学顕微鏡レベルの切片像を記録できるようになりました。 ネガフィルムに撮影し、現像、焼き付けをする手間を考えると、毎回光学顕微鏡レベルの切片像を記録することは現実的ではなかったのですが、CCDカメラによって簡単に実現できるよう になりました。デジタル情報になると電子メールの添付書類として簡単に送ることができるので、切削位置の確認等がより正確に、迅速にできるようになりました。

  さて、このようにまず電子顕微鏡で見るべき部分を決定する過程があり、それにかなり時間がかかる場合があるわけです。ですから、この段階を素早く正確にできるか どうか、また単調な仕事になりがちなところ、うまく精神をコントロールして集中を続けていけるかというあたりが重要で、当研究室のテクニカルスタッフはプロとしてかなりの レベルに達しています。もっとも、研究者が自分の興味のあるテーマについて電子顕微鏡で解析したいという場合は、それほど特別な能力、適性が必要であるとは思っていません。 例えば、実体顕微鏡下で個体を扱ってきている研究者なら、ほとんど違和感なく薄切の技術を短時間で身に付けてしまいます。外科のお医者さんはさらに適性もあるのか、非常に意欲的 に取り込んで自分のものにしてしまいます。

  光学顕微鏡レベルで電顕での観察すべき場所を決定したら、カミソリできれいにトリミングを行います。そして、今度は電顕レベルの切片の作製にかかります。 電顕レベルの切片にはダイヤモンドナイフを用います。ガラスナイフと比較すると高価ですから、不注意な取り扱い方でナイフを欠けさせたり、切れ味を悪くさせたりしてはいけません。 ミクロトームに取り付けている状態でダイヤモンドナイフに対して悪影響を与える行いは、ナイフの刃に樹脂以外のものを当ててしまうというようなことのほか、非常に分厚い切片を切 ろうとしてしまうということがあります。薄い切片ならダイヤモンドナイフのように固い刃先を持っていればいくらでも再現よく切ることができます。しかし、当然ある程度以上厚くなる と切れなくなり、鋭利なエッジに強い力が加わって、どうも刃こぼれなどが起きるようです。全く切れなくなるということにならないまでも、切れ味が悪くなり、よく切れる部分との差が 出て切片に筋がついてしまったりします。それがひどくなると試料を切ることができなくなり、切片がナイフのその箇所から二つに分かれてしまうことが起こります。また、骨のように そのままでは切れない硬い物質も刃こぼれの原因となります。このようなことから、分厚い切片を誤って切らないように、ナイフと試料との距離が正確に判断できる (これは距離を判断する装置があるわけでなく、実体顕微鏡を覗き、ナイフの刃先と試料との間からどの程度光が漏れてくるか等を見て判断するしかない)だけの技術を得ることが 第一となります。もっとも、ちょっと慣れればそれほどたいしたことではないというのが、今まで何十人にも切片の作り方を教えてきての結論です。ただ、ミスなくそして迅速に 切片作製ができるというのは作業能率に関係してきます。研究者にとっては電顕の解析を行うことがそれほどの労力、時間を要しないと思えれば、積極的にどんどん電顕での解析を 取り入れていくことができますし、技官として電顕解析を行う人もより多くのサンプルを扱うことができるようになります。ダイヤモンドナイフは水をたたえるダムのようなもので、 ダイヤモンドナイフの刃はダムの壁の一辺に刃が上を向くように取り付けられています。試料は上から刃に向かって振り下ろされます。実際に水を張った状態で切削をするので、 切片は出来上がると同時にダムの水面に浮かびます。電顕の場合、切片の厚さは切片が水に浮かんでいるときのその干渉色で判断します。虹色のどれかがついていれば厚すぎです。 電顕用には金色と銀色の中間あたりの色が一般的です。だいたい、70 nm 程度の厚さということになります。それより厚いと構造の重なりが高倍率での観察の妨げとなりますが、 低倍率ではコントラストが強くて見やすくなります。もっと薄いと高倍率のみに適して、低倍率ではコントラストの低い像しか得られなくなります。厚め薄めの切片も一緒に切って おくのが便利です。固定や脱水がうまく行っていないため、樹脂が試料の内部で均一に硬化していない場合等は切削自体がうまくいかず均一な切片が得られないことがあります。 観察したい場所が影響をあまり受けていなければ構いませんが、大きな支障となっている場合は、固定から包埋までのステップを見直します。

  切片はグリッドと呼ばれる、メッシュ状に穴の空いた薄い金属板上にはりつける形で回収します。穴の空いた部分にかかった切片について観察することができます。 観察前には電子染色を行います。通常、酢酸ウランとクエン酸鉛という重金属を用いて試料に沈着させ、電子との相互作用の強い部分を作ることで、構造のコントラストを上げよう という狙いで行います。実際にこの電子染色を行わないとコントラストはかなり低く、像の観察や記録はうまくできません。

  電顕の世界ではこの電子染色に使われるウランは非常に有用なのですが、特に最近、核爆弾の製造原料になりうることからの使用の規制が強まり、それまで使用可能 だった施設でも使用できなくなると言われています。当研究室ではRI管理区域でウランを使用しているので、入退室が面倒ではありますが、影響はないようです。





顕微鏡操作と画像記録
  電子顕微鏡の扱いと画像を記録することは薄切技術以上に腕の差が出るものでした。電子顕微鏡は電場がレンズのような役割を果たして電子を適切に曲げ、像を拡大します。 また、電子線が設計通りに鏡筒内を進むためには高真空であることが前提です。電場や高真空が不安定だと電子顕微鏡像そのものが安定しないので、昔は電子顕微鏡の調整そのものが 観察する前に必須でした。ただし、透過型顕微鏡は20年程前にはすでにその安定性においてプラトーに達したようで、一度調整を行うとかなり長期間問題のない像が観察されるように なってきました。また、画像の記録というのはネガフィルムに撮影するということだったのですが、電顕写真における適正なフォーカス、また像の歪みの無さの判定はかなりの技術、 経験が必要なものでした。撮影した写真の質もネガフィルムの現像、印画紙への焼き付けを経て初めて検討することができ、像の質が悪い時、それが固定、脱水包埋、薄切、電子染色、 電子顕微鏡の調整状態、撮影状態、現像と焼き付けの状態のいずれに問題があるのかを探るのも初心者には難しいものでした。この点についても電顕用のCCDカメラが設置可能になり、 少なくとも初心者にとって電顕写真を得ることの障壁は大変低くなってきました。CCDカメラを用いれば、どんな像が取得できているのかはモニター上でその場で確認できるので、 少なくとも意図しなかった失敗の画像を撮るということはなくなります。CCDカメラによるデジタル画像は画素の点ではネガフィルムに遠く及ばず、一切引き延ばしもできないので、 写真を撮ってから「発見」をするというようなことはなく、あくまで自分が見せたい、意図した画像になっているかどうかが重視されます。その点ではオリジナルなデータとしては ネガフィルムの方が遥かに優れていますが、撮影の簡便さ、デジタル画像の利便性を考えると用途に応じて積極的に使っていきたいものです。

  そのような流れからすると、透過型電子顕微鏡のハード面に詳しく調整にも慣れており、ネガフィルムへの撮影の技術も十分な人は、本当に電顕を使いこなす上では重要であり、 今後ますます貴重な存在となると考えられます。

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  ○走査型電子顕微鏡関連技術
      どのようにして画像が見えるのか
      試料作成法
      顕微鏡操作と画像記録





どのようにして画像が見えるのか
  走査電顕もまた電子を用いて画像を作りますが、透過型電顕のように試料を透過した電子は通常用いず、試料表面から飛び出してきた電子を検出します。電子線を細く絞り 試料を走査し、各々の点でどれだけ電子がでてきたか、それを検出器で測定してその強弱を画像のコントラストにします。どんな電子が出るかと言うと、いろいろ種類があるようですが、 二次電子と反射電子との2種類のみに注目します。二次電子は入射した電子との相互作用の結果試料側から放出される電子です。これは試料の厚さ数nm以内から出てきます。 エネルギーが低いのが特徴です。この二次電子は試料を構成する原子の種類にはあまり依存せず、試料の傾斜角度に強く依存するので、試料の凹凸、表面形状に関する情報を教えてくれ ます。一方、反射電子は試料のより深いところから発生し、入射電子が反射することからエネルギーが高く、その反射の効率は試料表面への入射角度と試料の組成(平均原子番号) に依存します。純粋に表面形状のみの情報を得るのには二次電子の方が適切で、反射電子は試料の組成の情報も得られる利点があるということになります。また、反射電子はエネルギー が高いことから検出しやすく、水分のある試料を低真空下において表面形状を観察すると言う、二次電子を利用した方法では不可能な観察が可能です。とにかく、絞った電子線を試料に 当て、そこから出る電子の量を検出器で捉えて明暗のコントラストにします。そして一般的にそのコントラストは試料の表面形状に依存するので表面形状をよく反映する画像が見える ことになります。透過電顕のような切片作製を必要とせず、生物に限らず多くの工業的試料の表面形状観察にも適しています。倍率はどれだけ電子線を絞ったかで決まります。 分解能は透過型電顕程はありませんが、数十nmの構造を見るくらいの分解能は有しています。






試料作成法
  一般的な生物試料の場合、やはり高真空中に試料を入れるため、脱水、乾燥を行います。その時に構造が壊れるのを防ぐため、透過型電顕の試料と同様に固定を行います。 試料の表面形状を見るのが目的ですので、樹脂包埋等はせず、脱水の後乾燥をさせます。この時、表面張力で試料の表面が変形した状態で乾燥してしまい、生きていたときとかなり異なる 表面形状になってしまう可能性があるので、極力表面張力による構造の変形が起らない乾燥の方法が工夫されています。代表的なものは2酸化炭素を用いた臨界点乾燥法です。 2酸化炭素は比較的達成しやすい温度、圧力で臨界点に達します。詳しくは理解しておりませんが、臨界点では物質は液体でも気体でもないということで、液体としての表面張力 がかかりません。試料をチャンバーに入れ、液体の2酸化炭素を導き、さらに臨界点に達するようにします。その状態でチャンバーから2酸化炭素を抜いていき、乾燥まで持っていきます。 そのままでも観察は不可能ではないのですが、一般に生体試料は導電性が低く、帯電しやすい細い突起等が多いので、電子線を当てると試料がどんどん帯電して本来の表面構造の情報 が隠れてしまいがちです。そのため、試料に金属をコーティングすることで、2次電子の放出も助け、また試料の導電性をよくして帯電を無くすことが試みられます。






顕微鏡操作と画像記録
  もともと、試料上で電子線を走査し、画像をモニター上に表すと方法をとっているため、走査電顕の画像は初めから数値情報ですので、デジタルファイルにしても質的な 劣化はありません。また、顕微鏡の走査も比較的易しいと思います。低倍率であれば観察も画像の撮影もあまり苦労しないことが多いようです。もっとも、大変よい画像を取得するため には透過型電顕同様高い技術がいるようです。私たちはそれほど走査電顕を使いこなすことはできていません。


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蛍光抗体法とは
  組織、細胞内の抗原を特異的に認識する抗体を用いてその抗原の分布を調べるという方法があります。そのような組織、細胞の抗原を認識する抗体を1次抗体と呼びます。 それに対し、その1次抗体を認識する抗体は2次抗体と呼ばれ、2次抗体に蛍光色素を結合させたものを用い、1次抗体、2次抗体を順次使用することにより、組織、細胞中の1次抗体 の分布、すなわちそれが認識する抗原の分布を蛍光標識した二次抗体の分布として見るという方法が一般的な蛍光抗体法です。目的とするタンパク質の局在の情報は細胞分画などによって (例えば核に存在するのか、他のオルガネラに存在するのか等)知ることができる場合もありますし、目的のタンパク質がin vitroで結合するタンパク質がわかっていて特別な局在をして いることが示唆される場合もありますが、細胞内のタンパク質の局在の情報は蛍光抗体法などによって信頼性の高いものを得ることができます。


蛍光抗体法の利点は
2次抗体に酵素を結合させ、酵素反応を局所的に起こさせてその強度から抗原の量を判定する、酵素抗体法という方法もあります。蛍光の場合、酵素のように条件によって反応産物の量 が変わるというようなことも基本的にありませんから、抗原の量と蛍光量との相関は比較的良いと考えられます。また、励起と蛍光のスペクトラムの異なる蛍光色素(異なった色で光る 蛍光色素)を結合した2次抗体が通常用意されているので、複数の1次抗体を用いて、同一のサンプルの複数の抗原の局在の違いを検討することができるわけです。また、蛍光色素、 光学系、CCDカメラの進歩等から、1蛍光分子の検出も可能になり、非常に大きなダイナミックレンジで蛍光量を捉えることができるようになってきました。ネガフィルムと比較すると、 CCDカメラからの情報は試料のそれぞれの点での蛍光の強度の定量的データとなっておりますので、抗原の量の比較はより正確にできるようになってきております。また、蛍光染色の 場合、通常の明視野照明による位相差像、ノマルスキー微分干渉像などには全く影響を与えないので、細胞構造等の情報はそのまま正確なものが得られます。また、蛍光抗体法の普及に よる光学顕微鏡とその周辺機器の技術的進歩は現在非常に重要な分野であるライブイメージングを支える基礎となっています。


主な原理と手順
  抗体を用いてありとあらゆる抗原の位置を決定しようとするなら、細胞は固定されていなければなりません。抗体はすみやかに細胞内に入り、抗原に結合しなかったものは 洗浄できなければなりません。これは細胞が生きている状態では不可能です。膜タンパク質の細胞外領域を認識する抗体等は細胞が生きている状態でも細胞表面の膜タンパク質に結合で きますが、抗体による架橋が影響して細胞が反応し、その分布は正常のものとは異なってしまう可能性があります。さて、固定というのは、細胞内の分子がその後流出したり、構造変化 や酵素反応等を起こさないように、その場にとどめ、不活化するものです。注目する抗原は大抵タンパク質ですので、タンパク質を変成させる(3次構造を変化させ、水にも溶けていら れないようにし、活性もなくす)ことが必要です。固定については別に述べますので、ここではこのくらいにして、とにかく、細胞内でタンパク質が変成して、動かなくなったとします。 抗体を細胞内に流入させるには、細胞膜が邪魔です。あるいは、オルガネラの膜も邪魔と言えます。そこで、膜に穴をあけます。このためには洗剤、界面活性剤の類を用います。一般的 にはTriton X-100を用います。この処理により抗体が自由に細胞を出入りできるようになります。試料を1次抗体に浸し、十分に抗原と結合するのに必要な時間が経過したら、余分な 未結合の抗体を何度か洗浄します。続いて2次抗体も同じように結合させます。洗浄後、サンプルとしては出来上がりですが、通常は蛍光顕微鏡下での蛍光の退色防止のために退色防止剤 の入った封入剤を用いてスライドガラスとカバーガラスとの間に封入し、その間をマニキュアなどでシールします。蛍光抗体法ですと顕微鏡の限界の性能まで使うことも多く、 その場合、レンズは油浸の高開口数(NA)のものを用いるのが一般的です。顕微鏡の対物レンズはカバーガラスの直下に試料が存在していることを前提にして設計してあるので、 カバーグラスの数十ミクロン下に試料があるような場合は、ぼけたような像になってしまいます。ですから、60倍、100倍のレンズの性能を精一杯使おうとするなら、例えば培養細胞や 組織切片はカバーグラスに付着させ、それを裏返しにしてスライドグラス上に封入するのが正しい封入の方法となります。


固 定
  タンパク質の変性ということで固定を捉えるなら、化学的、生化学的に理解はされてきています。しかし、ある固定法を用いた時、それぞれのタンパク質がどのような構造 になるのか、などについてはほとんどわかっていません。その点で、蛍光抗体法において適切な固定法を見いだすと言うことは、試行錯誤を必要とする段階と言えます。蛍光抗体法に適 した固定というのは、抗原が流出したり、本来の分布を変えてしまわない固定、抗体と抗原との結合を妨げない固定、また抗体が本来の抗原以外の物質と結合してしまうようなことのない 固定と言うことになります。化学的にタンパク質への作用が異なる固定法がありますので、それぞれを分けて説明していきます


脱水(乾燥)
  通常固定とは見なされない方法です。培養細胞を培養液から出して乾燥させれば、細胞の変形も著しいし、いろいろな変化が起こって正常なタンパク質の分布を反映した 状態とは考えられないからです。ただし、凍結切片等の場合、生の試料を凍結し、薄切後ガラス上 に回収し、乾燥させることがあります(その後に通常の固定を行う)。タンパク質 は乾燥によっても結合水が奪われて変成してしまいます。経験上、細胞をそのまま固定液に浸けて固定した時の効果と切片にして乾燥を経て固定した時の効果とは異なるので、生の組織 を凍結して切片にする方法を取っている場合は、乾燥によるタンパク質の変性の効果も考慮に入れるべきでしょう


有機溶媒
  ごく短時間での脱水の効果が期待できるものです。メタノール、エタノール、アセトンなどが用いられます。低分子で細胞内に入り易いのですが、脱水の作用が強く、 それによって細胞や組織を大きく変形させることがあります。そのため、切り出した組織の一部を有機溶媒に浸けて固定するのは一般的ではありません。培養細胞の場合にはよく使われ ますが、この場合、有機溶媒を冷やしておいて(しばしば-20度)、細胞の付着したカバーグラスを浸します。おそらく、脱水によって細胞が変形する前に細胞内の水分が凍結し、 その後は凍結した水分と外液の有機溶媒が置換していく形で脱水が完了すると思われます。一方で、脱水によってタンパク質の結合水を奪って変性させるやり方は、後に述べるTCA による変性や、化学修飾を伴うアルデヒドによる変性と比較すると、固定としては弱く、試料をPBSに戻した時に活性を取り戻すタンパク質も存在します。これは抗原が不可逆的な変化 を起こしにくいことを意味しており、事実、多くのモノクロナル抗体は有機溶媒固定した試料によく反応します。有機溶媒の場合、膜構造は抽出されるので一般に脱膜の操作は行う必要 がありません。


TCA(トリクロロ酢酸)
  生化学的にタンパク質を強力に変性させ活性をなくすともに沈澱させる物質です。酢酸のメチル基の部分は炭素1原子に水素3原子が結合していますが、TCAではその炭素原子 には巨大で電離していない塩素が3原子結合しています。有機化学で習ったように、本来カルボン酸である酢酸は電離の程度は弱く、弱酸でしかありません。しかし、TCAでは、電気陰性度 の高い塩素3原子が引っ張るのでカルボン酸の癖に100%電離して強酸となっているという分子です。強酸であるだけでは、固定剤としては使われることがありませんが、TCAの場合、巨大で 電離していない塩素原子を含む頭部が、タンパク質のペプチド結合(タンパク質を構成しているアミノ酸間の化学結合の様式)にくっついて、本来ペプチド結合にくっついている結合水 (タンパク質が水に溶ける、すなわち生理的な条件で正しい構造を取るのに必要な、タンパク質にごく密接に結合している水分子)をはじき出してしまい、その結果タンパク質が変性してし まうのだとされています。TCAはあらたに共有結合を作るわけでもなく、脱水の程度も有機溶媒に比べれば中途半端にも思えますが、実際には有機溶媒とは大きく違って、生化学では大変強力 な変性剤として使われています。このような酸は組織化学(組織切片の様子を様々な染色を通じて探る分野)では組織ブロックの固さの調節用にしばしば使用されてきましたが、TCAが蛍光 抗体法において、形態保持の十分な固定剤として使えること、他の固定法にない利点があることなどは私たちが示して、蛍光抗体法用の固定法として条件を開発してきました。すなわち、 TCA固定した細胞でないと正確に細胞内の分布を示せないという抗体がいくつか存在するということです。その理由は、おそらく上記のTCA特有のタンパク質の変性の仕方によるものと思われ ます。抗体が認識するタンパク質の特定の部位がTCAによる変性でないとうまくタンパク質表面に露出しないということがあるのだろうと想像しています。TCAの場合、膜構造そのものには傷害 を与えないので脱膜が必要です。


アルデヒド
  ホルムアルデヒドとグルタルアルデヒドが含まれます。アルデヒド基はタンパク質中のアミノ基に結合し、それにより正常な構造がとれなくなり変性させます。あるいは、 アルデヒド基がそのタンパク質内外のアミノ基と結合して架橋を行うことによりさらに強力に固定作用を発揮します。この架橋の作用はグルタルアルデヒドにおいて強く、電子顕微鏡レベル の構造保持にも欠かせません。さて、このように細胞の構造保持には強力なアルデヒドですが、化学結合をタンパク質上で作ってしまいますので、抗原の構造そのものを変化させる可能性が あること、また、架橋等によりタンパク質ないしはタンパク質の複合体を固めてしまって、かりに抗原が保存されていてもそこまで抗体が到達できない状態になってしまう可能性があります。 実際に、高濃度のグルタルアルデヒド固定に耐える抗原、抗体の組み合わせは非常に少ないですし、グルタルアルデヒドよりはホルムアルデヒド、それも低濃度のホルムアルデヒドの方が 反応性が良いと言う場合は一般的に多いのです。もっとも、細胞内でのタンパク質の構造保持ができないため正しい分布が示せないと言うこともあり、例えば、微小管を構成するチューブリン に対する抗体は強い固定に耐えるものが多いのですが、低濃度のホルムアルデヒドでは微小管自体が保持できず、高濃度のホルムアルデヒドで固定して初めて連続した美しい微小管像が得られ るという場合があります。アルデヒドの場合もきちんと脱膜をする必要があります。固定の際、細胞膜の一部におそらく亀裂が入り、脱膜の操作なしに細胞内が抗体で染め出される場合が あります。しかし、短時間の洗浄では洗い切れなかった抗体(ひょっとすると2次抗体のみ)を見ている可能性があります。脱膜が十分かどうか(細胞によっても十分なTriton X-100の濃度 と時間は異なります)は、染色像に確信が持てないとき等に一度疑った方が良いかもしれません。


固定法、抗体の組み合わせの良否の検定
どのように細胞が染まれば正しいのでしょう?最も明るく染まれば正しいのでしょうか?

  生化学ならばウエスタンブロットによって分子量の情報も加味してより正確な検定ができますが、蛍光抗体法の場合、蛍光が抗体と抗原との特異的な結合を反映しているのか どうか絶対的な保証はありません。ウエスタンブロットでは1本のバンドのみを強烈に認識する抗体が蛍光抗体の時に同じタンパク質を認識しているという点については、その可能性はある 程度高いものの、そうでない可能性もあります。ウエスタンブロットではタンパク質はSDSによるまた別の変性を受けています。SDSはタンパク質の構造を壊しますが、電離しているため タンパク質を可溶化しますので固定剤としては使えません。SDS変性したタンパク質をその抗体が認識しても、アルデヒドによる変性を受けたタンパク質を本当に認識するのか、ひょっとする とアルデヒドが結合したことにより、ウエスタンブロットでは認識しなかった全く別のタンパク質を認識するようになってしまったのではないでしょうか?かつてはそのような可能性を指摘 しても、否定するための実験は一般的に困難で、単なる屁理屈と見なされていたと思います。しかし、遺伝情報が手に入り、細胞内に自由にタンパク質を発現させることができるようになり、 また、特定の遺伝子をノックダウンすることも可能となっている現在では、より真実に近付くための検定をすることができます。

  検定の簡便な方法は、目的とするタンパク質に何らかのエピトープタグを結合させ、培養細胞に発現させることです。エピトープタグの抗体では発現が十分に確認されるのに、 目的とする抗体では、発現している細胞もしていない細胞も変化がないというのでは非常に疑わしいということになります。もしもその細胞に発現させたタグ付きタンパク質が内在性の目的 タンパク質の量と比較してもかなり多いことがウエスタンブロットで確認されていたなら、蛍光抗体で光っているものは目的のタンパク質とは関係のないものである可能性が大変強いと言う ことになります。また、細胞に発現させたタグ付きタンパク質の局在が明瞭な場合、目的の抗体による染色像と比較して、それらの分布がうまく重ならないのならば、やはりその抗体はその 抗原に特異的に結合しているとは言えないことになります。そもそも、抗体によっては目的のタンパク質を強く認識するものの、そのタンパク質が全く発現していなくても、非特異的にある 程度細胞を染色することがあります。抗体の濃度を高くしたり、励起光や露光時間、検出感度を上げることでそのようなバックグランドの像を明るい像として記録することは簡単であり、 何らかの像が見えれば、特にそれが自分に都合の良い像であれば、それで安心して、正しくない分布を信用してしまうことがありえます。このように目的のタンパク質にタグを付けたものを 細胞に発現させて、目的とする抗体の特異性を検定するのは有効な方法です。この時、同じ抗体でも固定法によって特異的に抗原に結合できる場合とできない場合がありますから、一つの抗体 については先に述べた幾種類かの固定法を試して、信頼できる分布を示す条件を探すべきです。また、もう一つ有効な検定法は目的とするタンパク質の発現をなくして、染色が全てなくなるか を調べることです。これは従来、目的とするタンパク質のnull mutantの個体が利用できないと不可能で、簡便ではありませんでしたが、最近のRNAiの技術の進歩により、非常に現実的になって きました。実際に、良い抗体、固定法では、RNAiにより目的タンパク質レベルを極端に下げた時、染色がほとんど見られなくなります。一方、細胞内のある部分の染色は全く見られなくなるが、 その他の部分は染色が残っている場合があります。ウエスタンで目的タンパク質が十分に減少していることが確認できているなら、残っている染色は実は非特異的な染色であったということ です。

  細胞に目的とするタンパク質とGFP等との融合タンパク質を発現させて、その融合タンパク質の局在を内在性のタンパク質の局在と見なしている研究もありますが、正しい結論が 導かれている保証はありません。遺伝学のモデル生物では、融合タンパク質を完全な欠失変異体に導入することで、その変異体の異常が正常に回復するかどうかを調べ、その融合タンパク質 が正常に機能できる検定することができます。融合タンパク質が正常な機能を持っていれば、その分布も内在性のものと全く同じであると解釈する場合がありますが、厳密に言えば一部の タンパク質しか正常な分布をしていなくても細胞全体の機能に十分であることが考えられます。また、そのような融合タンパク質の発現は、モデル生物以外では個体レベルでは難しく、 例えば、ヒトの組織での分布等は内在性のものを抗体で見るのが最も現実的で正確です。

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徳島大学大学院医歯薬学研究部医科学部門 生理系 細胞生物学分野
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